個人で不動産投資を行う大きなメリットの一つに、不動産事業で生じた赤字を給与所得など他の所得から差し引くことができる損益通算があります。しかし、この節税効果を最大限に享受しようとする際に、避けては通れないのが「土地等を取得するために要した負債の利子」の扱いです。
不動産所得の計算上、必要経費として認められる借入金利息であっても、損益通算の段階では一定の制限がかかります。このルールは物件を購入する際の土地と建物の価格構成によってあらかじめ決まってしまう側面が強いため、投資の入り口段階でその仕組みを正しく理解しておく必要があります。
不動産所得の損益通算において制限対象となる土地借入利子の定義と仕組み
不動産所得が赤字になった場合、その赤字を給与所得などと合算して全体の所得税を抑えることが可能です。しかし、不動産所得の赤字のうち「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する金額は、他の所得との損益通算が認められません。
土地借入利子の算出における借入金の充当順序と計算式
土地借入利子を算出する際、投資家に有利に働くルールが「借入金の充当順序」です。一つのローンで土地と建物を一括購入した場合、その借入金は「まず建物の対価に充当され、残額が土地の対価に充当されたもの」として計算することが認められています。
損益通算の可否を判断するためのステップは以下の通りとなります。
借入金のうち土地代金に該当する額を特定
借入金の総額から、建物の購入対価を差し引きます。この残額が「土地等を取得するための負債」となります。
年間の利息のうち土地分を算出
年間に支払った借入金利子の総額に、以下の比率を乗じます。
土地借入利子 = 利子の総額 × 土地等を取得するための負債の額 / 借入金の総額
損益通算の対象外となる金額を決定
不動産所得が赤字になった場合、その損失額のうち、上記で計算した土地借入利子に相当する部分は、他の所得から差し引くことができません。
土地借入利子を損益通算で制限する理由
なぜ、このような複雑な制限が設けられているのでしょうか。それは、かつてのバブル期などに、過度な借入による土地転がしや、意図的に大きな赤字を作って所得税を回避する過度な節税対策を抑制するために導入された背景があります。
建物の減価償却費のように「資産の価値が目減りすること」に伴う経費とは異なり、土地は価値が減少しない資産とみなされます。そのため、土地を買うための利息によって生じた赤字を、他の所得と相殺して税負担を軽減することは、公平性の観点から制限がかけられているのです。
ただし、これはあくまで損益通算の段階での制限であり、不動産所得の内部で利益から経費として差し引くこと自体は認められています。
具体的な事例による損益通算のシミュレーション
借入金額を8,000万円(自己資金2,000万円)とした場合、土地借入利子の制限が実際にどれほどの影響を与えるのか、具体的な数字で見ていきましょう。鍵となるのは、借入金が「建物の金額をどれだけカバーしているか」です。
事例A 土地の金額が大きく、建物金額が低い場合
- 物件価格:1億円(土地8,000万円 / 建物2,000万円)
- 借入金額:8,000万円(自己資金2,000万円)
- 年間の利息支払額:240万円
- 年間の不動産所得の収支:▲200万円(赤字)
この場合、借入金8,000万円はまず建物の2,000万円に充当され、残りの6,000万円が土地代に充当されたとみなします。すると、利息240万円のうち、土地分は180万円(240万円 × 6,000万円 / 8,000万円)となります。
不動産所得の赤字(200万円)のうち、土地借入利子(180万円)に相当する部分は損益通算できません。損益通算できる金額は20万円(200万円 - 180万円)となります。
建物比率が低いため、節税効果は大幅に制限されてしまいます。
事例B 土地の金額が低く、建物金額が大きい場合
- 物件価格:1億円(土地2,000万円 / 建物8,000万円)
- 借入金額:8,000万円(自己資金2,000万円)
- 年間の利息支払額:240万円
- 年間の不動産所得の収支:▲200万円(赤字)
この場合、借入金8,000万円はまず建物の8,000万円に全額が充当されます。建物金額と借入金額が同額であるため、土地代金に充当される借入金は0円となります。土地分の利息は、0円(240万円 × 0円 / 8,000万円)となります。
土地借入利子が発生しないため、不動産所得の赤字(200万円)は全額が損益通算の対象となります。この200万円を給与所得からマイナスできるため、所得税率が高い投資家であれば、多額の税金還付を受けることが可能になります。
不動産投資物件の購入時点で損益通算の限界が決まる理由
ここまでの事例で明らかなように、損益通算による節税効果の最大値は、「土地と建物の内訳」で決まります。そしてこの内訳は、物件の売買契約を結ぶ時点でほぼ確定してしまいます。
不動産の売買において、土地には消費税がかかりませんが、建物には消費税がかかります。そのため、契約書上の建物価格や消費税額をどのように設定するかが、建物価格を決定する根拠となります。
また、個人間の売買では、総額のみが記載され、内訳が不明なケースが珍しくありません。内訳がない場合に一般的に用いられるのが、固定資産税評価額の比率による按分であり、購入時にその比率についても検討が必要になってきます。
土地値が高い物件は土地の割合が高くなるため、どうしても建物金額が低く抑えられがちです。
建物金額が低くなると、借入金がまず建物代金に充当されるという有利なルールがあっても、建物金額が低ければ、すぐに枠が埋まってしまい、残りの借入金が土地代金へと回ってしまいます。「土地等を取得するための負債」が増えるため、支払利息のうち損益通算の対象外となる土地分の金額が膨らみます。
建物分が少ないため、毎年の経費として計上できる減価償却費も減り、そもそも節税の源泉となる赤字を作る力自体が弱まります。投資家の中には、節税効果を狙ってあえて建物比率が高い物件を狙う方がいますが、減価償却だけでなく、借入金の多くを建物分として計上し、土地借入利子の制限を回避する戦略をとっている面もあるのです。
初年度だけでなく2年目以降も続く土地借入利子の損益通算制限の長期的な影響
損益通算の制限は、物件を購入した初年度だけのものではありません。借入金を返済し続ける限り、あるいはその物件を保有し続ける限り、毎年の確定申告において土地借入利子の計算が必要となります。
元利均等返済の場合、返済初期は利息の支払い割合が高く、元本の返済はゆっくりと進みます。このため、投資の初期段階ほど土地借入利子の金額が大きく、損益通算の足かせになりやすい傾向があります。
年数が経過し、元本が減るにつれて利息の総額も減少していきます。土地借入利子の金額が減ってくれば、相対的に損益通算できる赤字の割合が増える可能性もありますが、同時に建物の減価償却が終わってしまうデッドクロスの時期も近づいてきます。
初年度は不動産取得税や登録免許税といった諸費用が発生するため、大きな赤字が出やすく、土地借入利子の制限を受けてもなお、いくらかの還付を受けられることが多いです。しかし、2年目以降は経費が安定します。
不動産投資における出口戦略を見据えた場合も、この土地借入利子の影響を考慮した長期的な税金シミュレーションは欠かせません。保有期間中の税負担を正しく予測するためには、単なる表面利回りだけでなく、土地借入利子の制限という税務上のハードルを考慮した実効利回りで判断することが求められます。
