貸家建付地の賃貸割合の「一時的な空室」を巡る裁決・裁判例の判断基準

貸家建付地の賃貸割合の「一時的な空室」を巡る裁決・裁判例の判断基準 不動産税務

相続税の申告において、アパートやマンションなどの投資・賃貸用不動産は、自用(自宅)に比べて低い評価額で計算できるという大きなメリットがあります。しかし、実務上、争点となるのが「課税時期(相続開始日)における空室」の扱いです。

貸家や貸家建付地の評価では、空室が生じている場合、原則としてその部分は「自用」として扱われ、評価の減額が認められません。ただし、例外的に「一時的な空室」と認められれば、賃貸されているものとして評価減を受けることが可能です。

問題は、この「一時的な空室」の期間が法令で明確に定められていない点にあります。果たして、数ヶ月の空室は「一時的」と言えるのでしょうか。本記事では、相続税評価の基本から、裁決・裁判例を検討し、実務的な対策まで解説します。

貸家建付地とは

貸家建付地(かしやたてつけち)とは、所有している土地に、自分で建物を建てて他人に貸し付けている場合のその土地を指します。

通常、土地を所有していれば、そこを売却したり、自分で住んだり、新しく建物を建て替えたりと、自由な活用が可能です。しかし、土地の上に「他人が借りている建物(貸家)」がある場合、話は別です。

日本における借地借家法では、建物の借主の権利が非常に強く守られています。建物の所有者(大家)であっても、借主がいる限りは勝手に建物を壊したり、立ち退かせたりすることはできません。この「建物借主の権利(借家権)」は、必然的にその建物が建っている土地の利用にも制限を加えることになります。

相続税評価において、貸家建付地が自用地(更地や自宅の敷地)よりも低く評価されるのは、このように「他人の権利によって、所有者の自由な利用が制限されている」という経済的なマイナス要因を正当に反映させるためです。

貸家建付地の相続税評価方法

貸家建付地および貸家の評価額は、以下の計算式で算出します。この計算構造を理解することが、「空室問題」がいかに税額に直結するかを理解する第一歩となります。

貸家建付地の評価額

貸家建付地は、自用地としての評価額から、借地権割合と借家権割合、そして「賃貸割合」を乗じた金額を差し引いて計算します。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

  • 自用地評価額: 路線価方式または倍率方式で計算した土地そのものの価格。
  • 借地権割合: 地域ごとに30%〜90%の間で定められています(住宅地では60%〜70%が多い)。
  • 借家権割合: 全国一律で30%です。
  • 賃貸割合: 建物の各独立部分(部屋)のうち、実際に貸し付けられている面積の割合です。

貸家の評価額

建物(貸家)自体の評価も、自用家屋の評価額から借家権相当分を差し引きます。

貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

「賃貸割合」の影響力

上記の式からわかる通り、「賃貸割合」が100%(全室賃貸)であれば評価額は最大まで下がります。

例えば、借地権割合70%、借家権割合30%の地域であれば、土地の評価額は「1 – 0.7 × 0.3 = 0.79」、つまり21%も減額されます。しかし、もし半分が空室(賃貸割合50%)と判定されれば、減額幅は10.5%に半減してしまいます。

貸家建付地の賃貸割合の「一時的な空室」とは

原則として、貸付用マンション等の賃貸割合は「相続開始日の現況」により判定されます。しかし、入居者の退去から次への入居までの間に生じる数週間の空室は、不動産経営の実態として避けられないものです。

この点について、国税庁の「質疑応答事例(貸家や貸家建付地の評価における一時的な空室の取扱い)」および「タックスアンサー(No.4614 地主が建物を貸している場合)」では、財産評価基本通達26の(注)2に基づき、以下の4つの要素を中心に、個々の事案ごとにそれらを総合的に勘案して「一時的な空室」に該当するかどうかを判断します。

  1. 継続的賃貸の実績: 各独立部分が課税時期(相続開始日)前に継続的に賃貸されてきたものであること。
  2. 募集活動の継続: 退去後、速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室期間中も継続して募集が行われていること。
  3. 非自用の証明(いつでも貸せる状態): 空室期間中に、所有者が自己の居住用や物置などとして利用しておらず、いつでも賃貸に供し得る状態を維持していること。
  4. 期間の一時性: 空室期間が一時的なものであること。質疑応答事例では、この期間について「課税時期前後各1か月程度」であれば、一時的なものとして取り扱うことが例示されています。

貸家建付地の賃貸割合の「一時的な空室」が争われた裁決・裁判例

ここからは、裁決・裁判例を検討し、何が「一時的」の分かれ道となったのかを探ります。

空室期間の長さによる棄却事例

多くのケースで、「数ヶ月」という期間が大きな障壁となっています。

平成27年11月11日(大阪裁決)

空室期間が最短3か月〜最長1年10か月に及んでいました。請求人は「期間だけで判断すべきではない」と主張しましたが、審判所は「1か月程度というタックスアンサーを大幅に超えており、社会通念上も一時的とは言えない」と退けました。

平成26年4月18日(棄却)

最短4か月、最長数年の空室があったケースです。ここでは「入居者が見つかりにくい社会情勢」が主張されましたが、審判所は「入居者がいないことは、むしろ借家権による制約がない(=自用として自由に使える)ことを意味する」と、厳しい見解を示しました。

平成28年10月26日(大阪地裁)

最短5か月の空室。裁判所は「単に募集しているだけでは不十分で、実質的に賃貸と同視できるほどの短期間である必要がある」と判示。5か月以上は「引き続き賃貸される具体的な見込み」がないと判断されました。

改修工事中の空室(平成28年12月7日裁決)

相続人が「改修工事をしていた」と主張したケースでも、最短5か月を超える空室は否認されました。ただし、「1室だけ」は認められています。

納税者勝訴の事例(平成20年6月12日 高松裁決)

この裁決は上記の結果とは逆になっています。空室期間が最短2か月〜最長1年11か月と長期であったにもかかわらず、「全部を貸家として評価すべき」と認められました。

請求人が速やかにリフォームを行い、不動産業者へ熱心に募集依頼をしていた。また、近隣に競合物件が林立し「すぐには埋まらない」という客観的状況があった。さらに、間取りが全室統一されており、明らかに「共同住宅専用」の形状であったことが「経常的に賃貸する意図」を裏付けたとされました。

最高裁で確定した直近の厳しい判断(平成30年7月10日確定)

神戸地裁から大阪高裁、そして最高裁へと進んだ事例では、最短2か月23日の空室も「一時的」とは認められませんでした。高裁は「過去の(高松裁決のような)有利な裁決は、その個別事案に限られる」と一蹴。現在の司法は、「相続時前後に、実質的に賃貸されていたと同視できるほどの近接した時期に次契約が締結されていること」を極めて重視しています。

「一時的な空室」の具体的な期間は?

以上の裁決・裁判例から導き出される「実務的な期間のボーダーライン」は以下の通りです。

  1. 「1か月以内」: ほぼ安全。質疑応答事例やタックスアンサーの基準内です。
  2. 「1か月超〜3か月未満」: 争点になる可能性大。前後で契約が締結されているか、強力な募集証拠が必要です。
  3. 「3か月以上」: 非常に危険。特別な事情(建物の特殊性や地域環境)がない限り、税務署は認めない傾向にあります。

「一時的な空室」を証明するための実務対策

もし、あなたの管理する物件で数ヶ月の空室がある場合、税務調査で「一時的」と認めてもらうためには、口頭の主張だけでなく客観的な証拠(書面)が必要です。

相続税申告の際、以下の書類を揃えておくことで、反論の根拠を強固にできます。

  • 不動産媒介契約書・募集依頼書の写し: 退去後、すぐに募集を開始したことを証明します。日付が重要です。
  • 賃貸ポータルサイト(SUUMO、LIFULL HOME’S等)の掲載履歴: 実際に市場で募集されていた事実をキャプチャ等で残しておきます。
  • リフォーム・クリーニングの領収書: 「いつでも貸せる状態」にするための修繕を速やかに行ったことを示します。
  • 入居申込書・新契約書の写し: 相続開始後、どのくらいの期間で次の入居が決まったか(具体的な見込みがあったか)を証明します。
  • 周辺物件の空室率データ: もし長期化している場合は、地域の供給過剰を示すデータを用意し、高松裁決のロジック(地域性の考慮)を援用する準備をします。

まとめ:相続発生を見据えた空室管理を

貸家建付地の評価減は、数百万円、数千万円単位で税額を左右することがあります。

今回の裁決・裁判例から言える教訓は、「空室を放置しないことが最大の節税」であるということです。

  • 退去が出たら1週間以内に募集を開始する。
  • リフォームは間を置かずに発注する。
  • 募集条件(家賃など)を柔軟に変更し、長期間(特に3か月以上)の空室を作らない。
タイトルとURLをコピーしました